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活動のご報告

活動のご報告

<催事参加>植生学会第18回仙台大会 公開シンポジウム/2013.10.12

2013.10.12 00:00

植生学会では、震災直後から学会内に震災復興プロジェクトチームを組織し、会員が中心となり、被災地在住の研究者や市民と協力して津波被害の実体とそれが植生に与えた影響について現地調査を実施しています。今回のシンポジウムでは、仙台湾岸地域の防災林としての黒松の成り立ち、被災した海岸林生態系の復元状況、海岸林のあり方と創造などの講演・議論が行なわれました。

■仙台湾沿岸地域のクロマツ林の成り立ち

クロマツ海岸林の歴史追跡から考える復興まちづくりについて東北学院大学教授の菊地慶子さんが講演しました。
沿岸部の海岸林は仙台藩政下においてクロマツ林が造成されました。防潮・防風の役割で植林され、その後、藩の建設や細工等の材料としても利用されたそうです。近代以降は官有林として沿岸地域村々によって地道な管理と育成がされてきました。田畑の前面に林が連なり、人家はいぐねで囲まれている様子が文献に残っています。そこから海岸林は田畑や家を守るために育てていることがわかります。
復興まちづくりをする上で”人の命”を守る造林構想が必要であり、クロマツ林再生のためにも、地域を超えた植林支援へ向かう必要があるとおっしゃっていました。

■海岸エコトーンモニタリングから見えてきた海岸林生態系の自己再生

全国各地の研究者から構成される「南蒲生/砂浜海岸エコトーンネットワーク」では、津波による大規模な攪乱が仙台平野沿岸部の生態系にどのような影響を与えたかを明らかにするために、現地をモニタリングしています。東京情報大学準急樹の富田瑞樹さんはその成果を講演されました。
モニタリングの結果、マツ類や広葉樹、草本植物(※1)が生き延び、新規散布種子や埋土種子から芽生えた個体も表土した裸地を中心に分布していました。高木の倒壊や根返りによって生じた凸地や凹地など、攪乱によって新たに創り出された環境をしたたかに利用する生き物も確認されています。震災後に壊滅したかに見えた海岸エコトーン(※2)とそこに生息・生育する生きものは、徐々に再生してきてることが明らかになってきているそうです。一方で、大規模な復興工事による生態系への影響が大きく、このまま工事が進めば現地の生態系・生物多様性は回復困難なダメージを受けるのではないかという懸念が生じつつあります。今後はモニタリングにもとづく「多機能・海岸エコトーンの復元」に向けた提案をすることで、ふるさとの自然と人(社会)の豊かさが持続する復興につなげたいとおっしゃっていました。

※1 草本植物:地上の茎は木部があまり発達せず、1年から数年で枯れる植物。
※2 エコトーン:陸域と水域の協会になる水際のこと。エコトーンは水の深さや土の水分条件が少しずつ変化するため、様々な植物や生物が生息している。

■バイオシールドという視点で創造する新時代の海岸林

海岸林は防潮、防風砂のために設置されており、大津波の備えとしてつくられたものではありません。それは防潮堤も同じです。震災をうけ、これまでの海岸林の役目に新たな地域防災の視点を組み込む転換期にきています。埼玉大学名誉教授の佐々木寧さんはバイオシールドという視点で海岸行きの新たなグランドデザインを提案されました。バイオシールドとは主に植生など生物構造物で地域防災と環境保持をはかることです。海岸林は地域の自然にあった樹木を利用し、樹高が高く、密度が高く、枝葉・茎根の密度も高い必要があります。そうすることで、より減災効果が期待できます。さらに、バイオシールドと土木工業的手法と組み合わせることで、多重防災が期待でき、地域の産業と共存・維持できるようにすべきだとおっしゃっていました。

■町民の想い・生活知が紡ぎ出す地域の海岸林「おほらの森」づくり

海岸林とは地域住民にとって自分たちで管理の一部を担い、防災機能としてだけではなく、食資源や燃料として活用するなど「人の暮らし」と共にあったものでした。しかし、東日本大震災によって宮城県亘理町の沿岸は壊滅的な被害を受けました。「わたりグリーンベルトプロジェクト」は亘理町震災復興計画事業の一つであり、「暮らしやすさ」と「亘理らしさ」があふれる、豊かな緑地・水辺の創世を目指しています。事務局長の松島宏祐さんは住民主体の海岸づくりについて講演されました。
震災から2年半が経過し、沿岸部集落の解散・超小規模化、海岸林のある暮らしと文化が忘れられ、海岸林復興への住民の主体的な参画も少ないです。そして、増大する復旧費と維持管理費が課題です。この課題を解決するためには海岸林が維持される持続可能な管理運営モデルの構築が必要です。亘理町のグランドデザインに住民の意見を反映させるため、住民参加のワークショップを行ない、専門家の協力を得ながら策定しています。さらに、将来の町の担い手である子どもたちがいる小学校にて種取りや植樹といった海岸林づくりを授業に組み込む仕組みをつくりました。住民が未来のまちに思いを馳せ、形にする場をつくることによって住民主体の持続可能な海岸林づくりを目指しているとおっしゃっていました。

何気ない景色の一部だった海岸林の役割を知り、海岸林の復旧はただ元通りにするだけではいけないのだと感じました。どのような海岸林を残すべきか私も考えてみようと思います。

(report/Ogino)